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広島高等裁判所 昭和24年(う)494号 判決

被告人

李鳳雲

主文

原判決を破棄する。

本件を山口地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人今西貞夫の控訴趣意第一点について。

論旨は本件につき原審が詐欺罪として処断しないで食糧緊急措置令第十條に該るものとして処断したのは法令の適用を誤つたものであるという主張である。食糧緊急措置令第十條には「主要食糧の配給に関し、不実の申告を爲し其の他不正の手段により主要食糧の配給を受け又は他人をして之を受けしめたる者は五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処す。其の刑法に正條あるものは刑法による」と規定されている。從つてその不正受配の行爲が例へば詐欺罪の構成要件に該当する場合には刑法第二百四十六條を適用すべきであつて食糧緊急措置令第十條を適用すべきではないこと洵に弁護人主張の通りである。今之を本件について見るに、原判決の判示事実には人を欺罔して主要食糧を騙取したとは云つてないけれども判示にあるように被告人が「金水兵等六十七名の者が現住していないにも拘らず現住して居るように裝い、、、米外八品目、、の不正配給を受けたものである」ということは言葉こそ違うけれども事実としては被告人が「判示助田配給所等において、配給係員に対して、右金日水等が現住していないのに現住して居るかのように裝つて主食の配給を請求し、右係員をして其の旨誤信させ、因つて右金日水等への配給として判示主食を交付させて之を騙取した」ということに外ならないのである。即ち判示「不正配給」という「不正」は現住しないものを現住するように欺罔行爲を弄した「不正」なのである。そうだとすれば前示の通り刑法詐欺罪の規定を以て処断すべきであつて、食糧緊急措置令第十條を以て処断したことは法令の適用を誤つたものであり且右両法條は法定刑を異にしているのであるから右の違法は判決に影響を及ぼすものであることは明らかである。

(弁護人今西貞夫控訴趣意第一點)

原判決には判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤がある原判決はその理由に於て「被告人は昭和二十四年一月二十四日より同年六月十日迄の間別表(一)乃至(四)記載の通り豫て入手していた世帶を金日水、田山太郞、長井四郞藤谷二三男各名義の主要食糧購入通帳四冊を使用して右各通帳に記載してある金日水外四名、田山太郞十八名長井四郞外二十二名藤谷二三男十九名が現住していないにも拘らず同人等が現住して居るように裝い宇部市西區助田町海岸通り山口縣食糧配給公團配給所外一ケ所において主要食糧である米外八品目米換算合計二千百十三瓩の不正配給を受けたものである。

と認定し之に對して食糧緊急措置令第十條を適用している而して右食糧緊急措置令第十條は「主要食糧の配給に關し不實の申告を爲しその他不正の手段に依り主要食糧の配給を受け又は他人をして之を受けしめたる者は五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処す其の刑法に正條あるものは刑法に依る」と規定している即ち刑法に正條あるものは刑法に依るのである。

ひるがへつて上述原判決の認定事實をみれば被告人は金日水等の名義の食糧購入通帳を使用して右金日水等が現住していないのに拘らず現住しているように裝うて配給所より主要食糧の不正配給をうけたものである即ち被告人は配給所を僞罔して主要食糧を受けた即ち騙取したのであり原判決認定事実に依れば被告人の所爲は明瞭に詐欺である。

從つて原裁判所は当然被告人に對して刑法第二四六條を適用すべきであり食糧緊急措置令第十五條を適用したのは法令の適用を誤つたものと云うべく且犯罪事実自体に関する法令の適用の誤りであるので当然判決に影響を及ぼすものであり原判決は破毀を免れないものと信ずる。

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